現在のように市場が成熟化すると、流通している商品の多くが、機能・性能等どれも同じ様になり、メーカーごとの個性が失われ、商品を差別化・独自化することが困難な状況になります。
消費者にとってはどこのメーカーの商品を購入しても大差のない状態、いわゆる商品のコモディティ化が進んでしまいます。
企業はあくまで「価値の提案者にすぎず、価値は顧客により創造される」と言われるようになって久しい訳ですが、これは「企業がいかにして顧客とともに価値を創造できるか」という価値共創の視点からマーケティングを組み立てようとする「サービス・ドミナント・ロジック」の考えが影響してます。
「サービス・ドミナント・ロジック」における「文脈価値」を重視したマーケティングは脱コモディティ化へ向けたヒントがあります。
Vargo と Luschは「価値は,個別的で,経験的で,文脈依存的で,意味内包的である」と説明しており、顧客が知覚する価値は,生活の文脈に依存することを示し,購買時点での価値ではなく,使用・消費段階での価値を重視する「文脈価値」をベースとしたマーケティング(価値共創型マーケティング)を提唱し,顧客による価値創造に企業が関わることが重要と説いています。
ではなぜ「文脈価値」が重要なのか、そもそも「文脈」とは何なのかについて考えてみたいと思います。
まずは、文脈価値の重要性を唱える「サービス・ドミナント・ロジック」を理解するためには、これとは対になる、「グッズ・ドミナント・ロジック」について理解しておく必要があります。
グッズ・ドミナント・ロジックとサービス・ドミナント・ロジック
以下の表は、グッズ・ドミナント・ロジックとサービス・ドミナント・ロジックの主な違いを示しています。
グッズ・ドミナント・ロジックでは、製品の機能や品質、物理的な属性などの要素に焦点を当て、取引ベースでの販売に重点を置きます。
一方、サービス・ドミナント・ロジックでは、顧客体験や関係の質、問題解決能力などの要素に焦点を当て、顧客との長期的な関係を重視します。
グッズ・ドミナント・ロジック | サービス・ドミナント・ロジック | |
フォーカス | 製品の生産と販売に焦点を当てる | サービスの提供と付加価値の創造に焦点を当てる |
提供する価値 | 機能、品質、物理的な属性、所有権 | 顧客体験と関係の質、問題解決能力、便利さ、カスタマイズ性 |
顧客との関係 | 取引ベースで、一度の販売に焦点を当てる | 長期的な関係を重視し、顧客満足度を向上させる |
収益の源泉 | 製品の販売による収益 | 提供されるサービスに対する料金や契約に基づく収益 |
競争優位性 | 製品の品質、価格、ブランド価値 | サービスの質、提供スピード、カスタマイズ能力、ブランド価値 |
顧客参加 | 顧客は製品を消費するだけで、積極的な参加は限定的 | 顧客はサービスの提供や価値の共創に積極的に参加する |
「グッズ・ドミナント・ロジック」
「グッズ・ドミナント・ロジック」は商品の「機能的価値」「情緒的価値」「自己実現価値」を前提条件に「モノ」は「お金」と交換すること、お金との交換価値を最大化することに重きを置いています。
「機能的価値」「情緒的・感情的価値」「自己実現価値」とは
例えば、髪を洗うシャンプーを想像してください。
世の中にはまだ固形石鹸または粉石鹸しか存在しておらず、髪も固形石鹸または粉石鹸で洗っていた時代とします。
その時代にあるメーカーが髪を洗う専用の液体の「シャンプー」という画期的な商品を発売しました。これまでの固形石鹸や粉石鹸とは異なり液状で簡単に使用することができます。
発売してみたらこれが大ヒット。
この状態ではまだ競合はいません。作れば作るほど売れました。
ところが、このメーカーが製造しているシャンプーとやらが売れていると聞いた他のメーカーもオリジナルのシャンプーを発売しました。同様にその他のメーカーも自社のシャンプーをこぞって発売するようになり、最初にシャンプーを開発したメーカーの売上は下がります。
そこで、どうすれば他のメーカーの商品よりも売れるようになるのだろうと考えるようになります。
これがマーケティングの始まりです。
機能的価値
そこで、髪を洗うための専用石鹸、液体シャンプーとして売っていたものを「髪の汚れがよく落ちる」シャンプーとにして売り始めました。
他社に無い切り口だったので売上は回復したのですが、今度も他のメーカーが真似てきます。
「髪の汚れがよく落ちる」以外にも、「フケを抑える」シャンプーや「かゆみを抑える」「泡立ちがよい」シャンプーまでもが登場しました。これが、いわゆる商品の機能的価値による差別化です。
情緒的・感情的価値
これほどまでに沢山の機能を備えたシャンプーが登場してくると、今度は商品の機能的価値を消費者に訴求するだけでは他のメーカーの商品と明確に差別化することが難しくなってきました。
そこで、最初のメーカーは「モデルの様な美しい髪になる」というシャンプーを容器もこれまでになく可愛らしくして発売しました。
この商品は「かわいい」とか「気分が嬉しくなる」という評価を得て売れました。
これまでのシャンプーに対する評価には無かった「かわいい」という感情を持ってもらえた訳です。これがいわゆる商品の情緒的・感情的価値による差別化です。
さらに、髪を洗う商品の選択肢がたくさん増えて益々商品の差別化・独自化が益々難しくなってきました。
自己実現価値
そこで今度は、貧困に苦しむ途上国から仕入れた原料を使用して商品を作り、このシャンプーを購入すると「途上国の貧困を救うことに繋がります」というメッセージを付けて販売しました。
少し高くても商品を購入することで困っている人の支援できるなら嬉しい、ちょっとは役に立つ自分がいる。そう思う人が購入してくれるようになりました。これが自己実現価値による差別化です。
●機能で差別化する「機能的価値」
●感じる気分や気持ちで差別化する「情緒的・感情的価値」
●今までとは違う自分になれる「自己実現価値」
こうやってシャンプーという商品に価値を付加しさらに変化させていくことで差別化をしてきたのです。
モノはお金と交換するために存在する
ここで抑えておきたいことは、「機能的価値」「情緒的・感情的価値」「自己実現価値」にしろ、「モノ」は「お金」と交換することを前提に、お金との交換価値を最大化することに重きを置いています。
つまり「交換」を中心に考え、交換活動を通じて市場に価値を作り出していくという考え方です。「グッズ・ドミナント・ロジック」では、価値というものは商品そのものの中に埋め込まれている「モノ」を交換するということを意味しています。
企業は価値の提案者にすぎない
「サービス・ドミナント・ロジック」
これに対し、「サービス・ドミナント・ロジック」では取引、売買あるいは交換は企業と購入者の関係で開始され、その関係は購入後も継続するという考え方です。
つまり、使用を続けるたびに、購入者がその商品の使用経験や体験を重ねるたびに、価値は使用者の中に積み重なっていくという考え方です。
この積み重なっていった価値を総称して、文脈価値と呼びます。
モノは価値を提案する道具にすぎない
価値は顧客が企業から提供されるモノやサービスを使いこなすことで生まれ、モノ自体の価値ではなく、モノは価値を提供するための道具であるとされます。
したがって、企業は「価値を提供」することはできず、できるのは「価値の提案」であり、顧客側が自らの生活の中におけるスキルや文脈(プロセス)を持って使った結果としてはじめて価値が生まれる訳です。
「サービス・ドミナント・ロジック」では顧客もマーケティング活動の主体と捉えることになります。
価値は企業と顧客の共創で生まれる
製品を通し、顧客が持っている文脈(プロセス)と企業が持っている文脈の出会うところで生まれるのが「価値」なのであり、企業が一方的に「価値」を決定しそれを提供することはできないのです。
価値は企業だけでなく、企業と顧客によって生み出されるものだという価値共創の発想が必要になり、それはすなわち、顧客がマーケティングの担い手になるということを意味しており、「価値」は動的なものになっているともいえます。
注意すべき点として、製品を通し、顧客が持っている文脈(プロセス)と企業が持っている文脈の出会うところで生まれるのが「価値」ですが、適切な文脈の中でないと、文脈価値は認識もされなければ、価値そのものも発揮もされないことです。
顧客との共創により生み出される価値
弊社こらぼたうんも企業と顧客・消費者との価値共創をテーマに2001年より活動していますが、消費者がその商品について感じる価値は,購買時点よりも,使用・消費段階での価値を重視する傾向が強いと理解しており、「文脈価値」が大切であると強く認識しています。
顧客の文脈価値を理解する
企業側が文脈価値を高めたいならまず、顧客の文脈価値を徹底的に理解する必要があります。それは顧客が製品やサービスを購入する目的や背景だけでなく、過去の購入や製品の使用状態や使用方法まで見極める事が必要です。
適切な文脈の中であればあるほど、購入して使用してる人は文脈価値を感じます。
そして生活の中で商品を使用する経験と体験を、適切な文脈の中で重ねていけば、文脈価値はさらに大きくさらに増幅していきます。
文脈価値を共創する
企業の役割は単なる価値提案者に留まらず、顧客との共創によって価値を生み出すことが求められています。
つまり、自社のブランドや製品がどのような文脈で受け取られ、顧客にとってどのような価値を持つのかを正確に把握することが重要な課題となっています。
さらに、商品の企画段階や試作が完了する前に、市場に商品を投入する前に顧客と協力して価値を共創することは、コモディティ化からの脱却を図るために効果的な手段と言えます。
価値共創とは、顧客が感じる価値を最大化しようとする取り組みのことです。これからのマーケティング活動では、単に製品やサービスが提供する価値だけでなく、それらが使用される瞬間ごとの「文脈価値」に注目する必要があります。
つまり、顧客の状況やニーズに合わせて、製品やサービスを提供することで新たな価値を創出することが求められるのです。
従来のマーケティングでは、顧客の「購入」を最終目標と位置づけていましたが、これを終点ではなく始点と捉えることで、企業はより多くの可能性を模索することができます。
顧客との協力によって新たな洞察やアイデアを生み出し、それを製品やサービスに反映させることで、市場における競争力を高めることができるのです。
結果として、文脈価値と価値共創は、企業にとって革新的な手法となり得ます。
これによって顧客満足度が向上し、顧客ロイヤルティの向上や市場シェアの拡大など、持続的な成長に繋がることが期待されます。
したがって、企業は価値共創の重要性を認識し、積極的に顧客との協力関係を築きながら、新たなビジネスチャンスを追求していくことによって今までにない新しい可能性を発見できます。